3Dプリントによる和菓子制作

a wagashi made from a 3D printed mold

職人の技を未来へつなぐDX

デジタルと伝統の融合:和菓子職人の働き方を変える3Dスキャン

こんにちは。明段舎株式会社のブラウンです。

次世代の空間映像で人々の生活を豊かにする」をコンセプトに、ウェブとリアルの垣根のない未来を目指し、デジタルと現実空間をつなげることに取り組んでいます。

これまで、大規模施設のデジタルツイン化やARコンテンツの制作など、さまざまな空間映像を手がけてきました。今回ご紹介するのは、これまでとは少し毛色の違う、新しい挑戦です。工業製品のプロトタイプ制作で知られる株式会社PRODUCT 158(イチゴウハチ)の代表 和田圭亮氏と協力し、伝統的な和菓子の世界にデジタル技術を応用するというプロジェクトです。

明段舎が現実世界や現実世界に実存する物体をデジタル3Dデータとして正確にキャプチャー(記録・保存)する技術に強みを持つ一方、和田氏のPRODUCT 158はデジタルデータを媒体に現実の「モノ」を創り出す技術に長けています。同じ三次元の世界を扱いながら、真逆の役割を強みとする明段舎とPRODUCT 158。両社が協業し、和菓子の新しい可能性を探る旅が始まりました。

工業製品のプロがスイーツ業界へ

 

PRODUCT 158の和田氏は長年、工業製品のプロトタイプやデザイン開発を専門とされてきました。しかし、工業製品の業界では3Dデータ活用が当たり前になり、顧客を驚かせることが難しくなっているという危機感を感じていたそうです。そこで、彼は3Dデータを活かせる「別の業界」を模索し始めました。

CG映像やVRアバターの制作、CGデータ販売など、様々な分野に挑戦しては撤退を繰り返す中で、あるパティシエとの出会いが彼の運命を変えました。そのパティシエは、海外での事例を知り、3Dプリンターを使って和菓子制作の新たな道を切り開きたいと考えていました。この出会いが、工業製品のプロであった和田氏をスイーツの世界へと導くきっかけとなったのです。

和田氏は、単に和菓子のデザインを提案するのではありません。「驚きを与えるデザイン」にこだわっています。パティシエの発想にはないユニークなデザインを3Dで形にし、「どうやって作ったの?」と顧客に思わせることで、商品の付加価値を高めるのです。この付加価値の提供は、今もなお、スイーツ事業で着実に実績を積み上げる土台となっています。

完璧な「手仕事」を求めて、私の奮闘記

そんなスイーツ事業で実績を積み上げつつある和田氏が、明段舎に持ちかけてくれたのが、今回の和菓子をスキャンする仕事でした。美しい座布団型のモンブランをシリコンモールドを制作するという実績を作っていたPRODUCT 158が、次に求めたのは、職人の手で作り上げたような「手仕事感」をデジタルで再現することでした。

CADでデザインされた和菓子はどこか淡白な印象を受け、一つひとつ異なる繊細な表情が失われてしまいます。和菓子職人は手作業で上生菓子を作る際、無意識にバランスを見ながら作りこんでいきます。そこで私は、本物の手作りの和菓子を3Dスキャンでデータ化し、その「バランスのとれた不完全さ」をそのまま型に落とし込むことを提案しました。「任せてください!手仕事による繊細さ、レーザースキャンでそのままデータにしますから!」と、自信満々に伝えました。

しかし、この仕事は想像以上に困難を極めました。対象の和菓子は、繊細な花びらのような模様が特徴の、美しい上生菓子でした。その美しさとは裏腹に、驚くほど柔らかかったのです。和菓子全体をスキャンするためにひっくり返そうとすると、花びらの模様が潰れてしまったり、欠けてしまったりします。さらに、私の高性能3Dスキャナー「Revopoint Miraco Pro」は0.2mmまで解像できる高精度を誇りますが、細かすぎるデザインを複数のスキャンでつなぎ合わせるには、マーカーを打つ必要があります。しかし、和菓子は柔らかすぎてマーカーを打つこともできませんでした。

悪戦苦闘の末、最終的な解決策として思いついたのは、和菓子屋さんに、本物の和菓子よりも少し大きめのモデルを実際の餡子(あんこ)で作っていただき、それを乾燥させて 硬くしてもらう、というものです。お客様である和菓子屋さんの協力のもと、作っていただくことができました。この方法で、ようやく和菓子のデジタルツインを完成させることができました。

the Miraco Pro laser scanner

職人の技を未来へつなぐDX

 

今回、プロダクト158の和田氏との協業を通して、明段舎の提供する3Dスキャンサービスが、和菓子職人の皆さんの働き方を根本から変える可能性を実感しました。

手作業でしか作れなかった複雑な形の和菓子を、シリコンモールドで量産できるようになることで、製造コストを大幅に削減し、時間を短縮できます。新たに生み出された時間で、新しい和菓子の開発に集中したり、顧客対応や営業活動に時間をかけたりと、事業拡大を図ることもできます。

和菓子職人の手仕事の良さをそのままデータ化し、量産という形でその技を多くの人に届ける。これはまさに、日本の伝統文化をデジタルで支援する「職人技のDX」です。明段舎とPRODUCT 158はこれからも、職人の皆さんの想いや技術を未来へつなぐお手伝いができることに大きな喜びを感じています。

神戸コンベンションセンター

神戸コンベンションセンター

みんなさん、こんにちは。明段舎株式会社のブラウンです。 

「次世代の映像で生活を豊かに」をコンセプトに、Webとリアルの垣根のない未来を目指し、デジタルと現実空間をつなげることに取り組んでいます。

今日は、私がこれまで手がけた中で最も規模が大きく、これまでの知識と経験を総動員して成し遂げたプロジェクトの一つ、神戸コンベンションセンター(KCC)のデジタルツイン(デジタル空間上に現実空間を再現したもの)が完成するまでについてお話します。2万8千平方メートルという広大な会場を、どのようにデジタル空間に再現したのか、その舞台裏を覗いてみましょう。完成したデジタルツインのバーチャルツアーはこちらからご覧いただけます[Kobe Convention Center]。個々の建物のバーチャルツアーはこちらです[神戸国際会議場(本ページ)、神戸国際展示場1号館神戸国際展示場2号館神戸国際展示場3号館]

プロジェクトの始まりと、そのスケールの大きさ

神戸コンベンションセンターから直接お話をいただいたとき、これは大変なプロジェクトになるに違いないと、身が引き締まる思いでした。実際に現場を訪れて、その広さに圧倒されましたね。とにかく巨大で、この複雑な建物をどうやってデジタル化しようか、頭の中はフル回転でした。

KCCのご担当者様は、デジタルツインを通して、潜在顧客に会場をオンラインで体験してもらいたいと考えていらっしゃいました。また、施設のレイアウト計画や測定など、内部業務での活用も期待されていらっしゃいました。

見積と価格設定

今回は日割り料金でのお見積を提案させていただきました。スキャンと編集にかなりの時間がかかること、それにクライアントからいただいた平面図が一部しかなかったため、これがベストな方法だと判断しました。そこで、メインスペースとそれ以外のエリアの比率をもとに、全体の面積を推定する独自の計算方法を編み出しました。当初は35日間のスキャン作業を見込んでいましたが、KCCの皆さんのご協力のおかげで、最終的に30日間で完了させることができました。本当に感謝しています。

ブラウンとライカBLK360G1。背景に「マターポート撮影中・立ち入り禁止」と書かれている。

KCCの皆さんのご協力のおかげで早期に撮影を終了しました。この写真の背景にある警告まで作成していただきました。

そして、デジタルツインは制作して終わりではありません。KCCのスタッフの皆さんに、対外的にはより効果的に、内部業務に対してもより効率的にご活用していただくために、定期的なメンテナンスや分析レポートの提供などを含む継続的なサポートもご提案させていただきました。

頼れるツールと技術の活用

広大な会場を隅々までスキャンするには、高性能なツールが欠かせません。画質の面ではMatterport Pro2が頼りになりましたが、特に広大な展示ホールではLeica BLK360 G1の性能が発揮されました。Leicaの機材はMatterportのソフトウェアツールでは、最も正確な3Dスキャナーで、10㎡あたり僅か6mm以内の誤差しかありません。

ソフトウェアも色々使いましたね。3DVista、Matterport、それにMPEmbed(エムピーエンベッド)。特にMPEmbedは非常に活躍しました。メニュー作成や360°画像の埋め込みはもちろん、Matterportで処理すると稀に大きな空間に「通行不能な壁」のようなノイズ(不要データ)が発生することがあるのですが、MPEmbedを使えばこれを綺麗に修正できるんです。

高画質の360度パノラマ写真にはSony α 7RⅣミラーレスカメラを使いました。処理ソフトも、LightroomPhotomatixPTGui(ピーティーグイ)、Affinity Photoと、それぞれの特徴を活かし、処理にもこだわりました。

問題解決!

巨大な展示ホールのスキャンは、まさにパズルを解くような作業でした。そこで、複数の技術者が同時にスキャンできるよう、LeicaとiPad Proを組み合わせた独自のワークフローを開発しました。Matterportは、別々にスキャンしたデータを後から繋ぎ合わせるのに費用がかかってしまうのですが、この方法ならその心配はありません。

そして、荷物や機材の搬入口の360°パノラマ撮影で困った事態が発生しました。メンテナンス作業中で、シャッターが開いた状態の撮影ができなかったのです。そこで、以前撮影した通常の写真と、新しく撮影した360度画像をAffinity Photoで合成するという方法で乗り切りました。

パノラマ撮影時のシャッタの状態(11月)

通常撮影時のシャッタの状態(9月)

9月の画像と11月の画像を合成したパノラマ!

ワークフローと実行

スキャンデータは毎日アップロードしていました。進捗管理はもちろん、エラーがあった場合にもすぐに気付けるので、とても大切なポイントです。イベントなどでスキャン作業が中断されることもあったので、以前のデータと照合しながら、常に整合性を保つように気をつけました。そして、何よりも品質を保つことを最重視しました。

複数の技術をまとめ上げる

ありがたいことに、今回使ったプラットフォームはすべてスムーズに連携させることができました。3DVistaにGoogleマップのタイルを組み込めたのも良かったです。

Matterportとミラーレスカメラで撮影した360°写真の色合いを揃えるのは少し大変でしたが、Affinity Photoで丁寧に調整することで解決できました。

納品とクライアントの反応

完成したデジタルツインのバーチャルツアーはKCCのWebサイト上で公開し、オリジナルの写真データと共にお渡ししました。KCCの皆さんに喜んでいただけて、本当に嬉しかったです。

神戸コンベンションセンターバーチャルツアーの説明画像

神戸コンベンションセンターのHPにおいてこの画像をクリックしてバーチャルツアーを再生する仕組みとなっています。

今は、一部内装やレイアウトが変更された箇所を反映するためのアップデート作業を進めています。

経験から学んだこと

今回のプロジェクトを通して、大規模なデジタルツイン制作には経験がいかに重要であるかを改めて実感しました。

他のMSP(Matterport Service Provider:Matterportのサービスプロバイダー)とのネットワークも、大きなプロジェクトを成功させるためには欠かせません。このプロジェクトではLeicaBLK360二台を同時進行に撮影した日には株式会社exAgentの中山様、MatterportPro2撮影の一部を株式会社Toltechの前田様のお手伝いに感謝しております。

そして、どんなに高性能な機材を揃えても、それを使いこなす技術がなければ意味がありません。優れた作品を生み出すには、ツールの性能だけでなく、その限界を知ることが重要です。ハンマーを買ったからといって、すぐに大工になれるわけではないのと同じですね。だからこそ、人の経験値が大事なのです。

最後に

神戸コンベンションセンターのバーチャルツアープロジェクトは、スタート時には本当に多くの課題を抱えていましたが、最終的な成果物には、大変満足していただいています。デジタルツイン技術の可能性を示す好例であり、私自身も多くのことを学ぶことができました。

レーザースキャナーの限界を知っていたからこそ、今回のプロジェクトを成功させることができたのだと思います。最新のMatterport Pro 3を使わなくても、工夫次第で素晴らしいデジタルツインが作れるということを証明できたのではないでしょうか。バーチャルツアー制作のスキルを磨くには、28,000平方メートル規模のデジタルツインに挑戦するような、実践的な経験に勝るものはありませんね。

関連リンク

建物のマーケティングで活用する明段舎の3D撮影サービスについてご興味頂けた方はマターポート3D撮影サービスまでご覧ください。

建設現場や大規模施設で活用する明段舎のデジタルツイン作成サービスについてご興味頂けたかたはデジタルツイン作成サービスまでご覧ください。

3DVistaの制作についてご興味いただけた方は「3DVista」のブログカテゴリーや「パノラマとバーチャルツアー」の制作事例をご覧ください。

明段舎では、3DVistaと360°撮影の講習を行っております。ご興味があればこのフォーマットでご連絡ください。現時点では対面でも講習が可能ですが、2025年秋ごろオンディマンドコースをリリースする予定です。

MICE施設の3D撮影の課題点と解決法はこのブログまで。

神戸コンベンションセンターバーチャルツアーの英語での取材についてはこちら。  

コモングラウンドリビングラボ(CGLL)

コモングラウンドリビングラボ(CGLL)

ARが描く驚きの世界:デジタルツインで実現!コモングラウンドリビングラボ(CGLL)での実験記録

皆さん、こんにちは。明段舎株式会社のブラウンです。

「次世代の映像で生活を豊かに」をコンセプトに、ウェブとリアルの垣根のない未来を目指し、デジタルと現実空間をつなげることに取り組んでいます。

全国で350件以上のバーチャルツアー制作実績を持つ弊社では、Matterport Pro2Leica BLK 360 G1といった最新機材とドローンを駆使し、高精度な3Dデータやデジタルツインを制作しています。

近年、AR技術の進化には目覚ましいものがあり、私もその可能性に注目しています。AR技術を使えば、現実世界にデジタル情報を重ね合わせ、今までにない表現や体験を生み出すことができます。そこで、AR技術とデジタルツインを組み合わせることで、展示空間をさらに魅力的にできるのではないかと考え、大阪商工会議所のサポートで「コモングラウンドリビングラボ」(CGLL)で実証実験を行うことができました。

実は2年前にも、大阪市港区の「POWERARTS」で同様の実験を試みたのですが、その時はWi-Fi環境が大容量のコンテンツに対応できず、うまくいきませんでした。今回はその反省を活かし、万全の準備で臨みました。

実験場所として選んだCGLL

今回の実験場所として選んだコモングラウンドリビングラボ(CGLL)は、大阪市北区天満橋にある、スマートシティ実現に向けた実証実験場です。様々な分野の企業や団体が集まり、互いに協力しながら、新しい技術やサービスを生み出すためのオープンイノベーションの場となっています。

CGLLを選んだ理由は、広々とした実験空間、安定したWi-Fi環境、そして異業種交流による刺激が得られる点に魅力を感じたからです。CGLLのメンバーや企業間で定期的なミーティングも開催されており、お互いのVRやARの取り組みを聞くことがそれぞれの良い刺激になっています。

CGLLでの奮闘の2日間

CGLLでの実験は2日間にわたって行われました。

1日目は、Leica BLK 360スキャナーを使ってCGLLの実験空間をくまなくスキャンし、Matterportを使って点群データを処理してデジタルツインを作成しました。2年前の失敗を教訓に、Wi-Fi環境と機材の選定、コンテンツの圧縮などに細心の注意を払いました。作業をしたパソコンではかくかくとした動きもなく綺麗に滑らかに映っていました。デジタルツインが完成した時は、本当に嬉しかったです。

Leica BLK G1

Leica BLK 360での撮影のイメージ(建物測量の案件より)

2日目は、いよいよARコンテンツの表示検証です。過去の失敗が頭をよぎり、緊張感が高まりました。しかし、ここで予期せぬトラブルが発生!API接続がうまくいかず、ARコンテンツが表示されないのです。

APIはデジタルツインの保存先のMatterportのサーバーとAR表示ソフトの「AR Connect」の間のものです。3時間に及ぶ格闘の末、AR Connectの開発者であるPhoria社の方々とオンライン会議でつなぎ、協力して原因を突き止めました。なんと、原因は設定ミス!初歩的なミスだと思われるかもしれませんが、突き止めるのにプロでもそれぐらいの時間を要するほど、設定項目が複雑なのです。安堵と同時に、トラブルシューティングを通して、改めて確認の大切さ、プロでも難しい設定の複雑さを痛感しました。

ARコンテンツの2つのアニメーション

トラブル解決後、ついにARコンテンツの表示に成功しました!

今回表示したのは、2つのアニメーションです。1つは、比較的軽量な恐竜のアニメーション(約5MB)。もう1つは、フォトグラメトリで作成した、私が永遠にバク転し続けるアニメーション(音声付き)です。私は42歳なので、現実ではバク転なんてできませんが、ARなら夢が叶います(笑)。

CGLLでの恐竜のアニメーション

CGLLでブラウンがバク転をする様子(笑)

これらのアニメーションは、CGLLの両端に配置しました。約50メートル離れた場所に表示されたARコンテンツは、1回の位置合わせで正確に表示され、スムーズに動作しました。まるで、本当に恐竜が歩き回り、私がバク転しているかのような、不思議な感覚に包まれました。

スマホで位置合わせのイメージ(「POWER ARTS」のAR展示より)

ARが切り開く未来の展示

今回の実験を通して、AR技術の可能性を改めて実感しました。AR技術を使えば、展示空間に新たなコンテンツや情報が追加でき、より魅力的な体験を提供することができます。

例えば、博物館では展示物の解説をARで表示したり、歴史的建造物をARで復元したりすることができます。ショールームでは、商品の詳細情報をARで表示したり、バーチャル試着を体験したりすることができます。イベントでは、ARを使った空間演出やインタラクティブなゲームで、参加者を楽しませることができます。教育現場では、ARで教材を視覚化したり、仮想空間での体験学習を実現したりすることができます。

AR技術とデジタルツインの組み合わせは、未来の展示のあり方を大きく変える可能性を秘めていると言えるでしょう。

まとめ:挑戦の先にある未来

コモングラウンドリビングラボ(CGLL)での実験は、2年前の失敗を乗り越え、AR技術の可能性を再確認する貴重な経験となりました。ARとデジタルツインが創造する未来の展示に、大きな期待を寄せています。

今回の実験を通して、改めて「挑戦することの大切さ」を学びました。失敗を恐れず、新しい技術に挑戦することで、未来を切り拓くことができるのだと実感しました。

最後に、大阪商工会議所とコモングラウンドリビングラボ(CGLL)の皆さん、そしてPhoria社の開発者の皆さんに、心より感謝申し上げます。

関連リンク

大阪商工会議所のプレスリリース

実証実験報告(当社ブログ)

明段舎のデジタルツイン作成サービス

下記は動画での実証実験報告です。

日本真珠会館のバーチャルツアー

日本真珠会館のバーチャルツアー

こんにちは。明段舎株式会社のブラウンです。 

「次世代の映像で生活を豊かに」をコンセプトに、Webとリアルの垣根のない未来を目指し、デジタルと現実空間をつなげることに取り組んでいます。

全国で350件以上のバーチャルツアー制作実績を持つ弊社では、Matterport Pro2Leica BLK 360 G1といった最新機材とドローン(Mavic 2 Pro)を駆使し、高精度な3Dデータやデジタルツインを制作しています。

今回は、戦後の真珠産業の復興に貢献した「日本真珠会館」のバーチャルツアーを制作しました。国の登録有形文化財にも指定されたモダニズム建築の傑作を、デジタル空間で体感していただけます。

日本真珠会館と真珠輸出組合の歴史

日本真珠会館は、1952年に設立された真珠輸出組合の拠点として、神戸市に建設されました。戦後日本の復興を象徴するモダニズム建築として、国の登録有形文化財にも指定されていましたが、老朽化のため2023年に惜しまれつつ閉鎖されました。

この建物は、日本の真珠産業の繁栄の歴史を静かに見守ってきた証人でもあります。戦後、真珠は絹と並ぶ日本の主要な輸出品として、外貨獲得に大きく貢献しました。当時の日本は、真珠の輸出によって得た外貨で、必要な物資を輸入し、復興を遂げていったのです。真珠輸出組合は、真珠の品質管理や輸出促進を担い、業界の発展に尽力しました。その活動拠点として建設されたのが、日本真珠会館です。

モダニズム建築

日本真珠會舘・3Dバーチャルツアー

エントランスの緩やかな曲線を描くデザインは、建物の直線的な冷たい印象を和らげ、来訪者を自然に内部へと誘導します。

 

日本真珠会館は、建築家・光安義光(みつやす よしみつ)氏の設計によるモダニズム建築の傑作です。1952年、日本真珠輸出組合の資金と兵庫県の補助金によって建設されました。それまで兵庫県庁のような公共設計で知られていた光安氏は、日本真珠会館を設計すると同時に、自身も日本真珠会館内に事務所を構えることになりました。

光安氏の「空間は人それぞれに時間的変化による感情を持っている」という設計思想のもと、この建物は設計されました。戦後の復興を象徴するモダニズム建築として、当時の最新技術とデザインが導入されました。

例えば、エントランスの緩やかな曲線を描くデザインは、建物の直線的な冷たい印象を和らげ、来訪者を自然に内部へと誘導します。

中庭は、暑い季節に自然と建物内の空気の対流を促し、阪神・淡路大震災の際には建物のねじれを吸収し、倒壊を防いだと言われています。

また、中庭は、暑い季節に自然と建物内の空気の対流を促し、阪神・淡路大震災の際には建物のねじれを吸収し、倒壊を防いだと言われています。

さらに、階段の手すりは、手触りの良さを追求した滑らかな曲線で仕上げられています。細部にまでこだわった設計は、訪れる人々に心地よさと感動を与えてくれます。

日本真珠会館の面格子の上端が少し中へ傾いています。歩行速度による変化を感じさせたかったと考えます。

バーチャルツアーで蘇る日本真珠会館

この貴重な建物を、バーチャルツアーとして後世に残すことができ、大変うれしく思います。

1階のミュージアムには、日本の真珠産業の歴史を物語る貴重な資料の数々が展示されています。

  • 昔の事務機器:当時の様子が偲ばれるレトロな事務機器の数々。

  • 真珠の加工器具:真珠の選別や研磨に使われていた様々な道具。

  • 戦前・戦後の写真:真珠の養殖風景や真珠取引の様子を撮影した貴重な写真の数々。

これらの展示品を見ると、日本の真珠産業が歩んできた道のりがよくわかります。

隠された魅力の秘密を解き明かそう

今回のバーチャルツアー制作にあたり、光安義光氏の息子であり、自身も建築家である光安義博氏にお会いすることができました。光安義博氏からいただいた日本真珠会館の建築に関する解説を、バーチャルツアーのいたるところで目にすることができます。この解説は建物の中のタグに、写真、動画、文章で埋め込まれています。日本真珠会館の隠された魅力を探ることができますので、ぜひ見つけて楽しんでみてください。

例えば、

  • 螺旋(らせん)階段: 鳥かごのような形状の螺旋階段は、太陽光線によって壁に美しい陰影を映し出します。

  • 片肘の椅子: 4階の交換室で使われていた片肘の椅子は、長時間の会議や入札会での利用を考慮したデザインです。

  • 無目(むめ)がない滑り出し窓: 上下2連の窓に使われている溝のない部材「無目」を配さない珍しい構造は、開放感を高め、眺望を最大限に楽しむための工夫です。

これらの解説を通して、光安氏の設計思想や、当時の建築技術を垣間見ることができます。

最後の入札会の熱気をそのまま記録

4階には、2つの異なるイベントを記録したバーチャルツアーがあります。これらのイベントは3Dバーチャルツアーとは別に360度写真と動画で真珠会館の利用者の様子を記録しています。

1つ目は、「The 103rd Concorde South Sea Pearl Auction」です。このイベントでは、国際色豊かなバイヤーたちが真珠を品定めし、交渉する様子を記録しました。真珠を手に取って吟味する音や、窓の外を走る車の音など、環境音も収録することで、2022年8月の暑い日の熱気を体感できます。

The 103rd Concorde South Sea Pearl Auction

2つ目は、同年9月に行われた「入札会」です。こちらは、日本真珠輸出加工協同組合が主催する組合員限定の入札会です。組合員である出品者が出品した真珠に対し、組合員である買手が札を入札箱に入れることで応札します。バーチャルツアーでは、入札結果を待つ間の緊張感あふれる雰囲気や、結果発表の様子を臨場感たっぷりに再現しています。司会者による落札結果のアナウンス、慌ただしく結果用紙を配布する係員、そして落札した喜びや落札できなかった悔しさなど、様々な感情が入り混じる空間を体験できます。

日本真珠輸出加工協同組合の日本真珠会館での最終入札会

多彩な機材で紡ぎ出すバーチャルツアー

今回のバーチャルツアーは、Matterport Pro2カメラで撮影した3D空間データを基に構築しました。建物の内部をくまなく撮影し、その形状や質感を忠実に再現しています。

さらに、Sony α7R IVと魚眼レンズを組み合わせた360度パノラマ写真や、高画質動画も撮影しました。これらの写真や動画を3D空間データに埋め込むことで、より臨場感あふれるバーチャルツアーを実現しました。

バーチャルツアーで未来へと受け継ぐ

日本真珠会館は、日本の近代建築史において重要な役割を果たしただけでなく、戦後の真珠産業を支えた拠点でもありました。

私たちは、バーチャルツアーを通して、この建物の歴史と魅力を多くの人々に伝え、未来へつないでいきたいと考えています。

関連リンク

日本真珠輸出組合のHP

文化遺産の記録で活用する明段舎の3D撮影サービスについてご興味頂けた方はマターポート3D撮影サービスまでご覧ください。

The 103rd Concorde South Sea Pearl Auction」のような3DVistaの制作についてご興味いただけた方は「3DVista」のブログカテゴリーや「パノラマとバーチャルツアー」の制作事例をご覧ください。

明段舎では、3DVistaと360°撮影の講習を行っております。ご興味があればこのフォーマットでご連絡ください。現時点では対面でも講習が可能ですが、2025年秋ごろオンディマンドコースをリリースする予定です。

バーチャル牛舎

バーチャル牛舎

こんにちは。明段舎株式会社ブラウンです。

「次世代の空間映像で人々の生活を豊かにする」をコンセプトに、Webとリアルの垣根のない未来を目指し、デジタルと現実空間をつなげることに取り組んでいます。

全国で350件以上のバーチャルツアー制作実績を持つ弊社では、Matterport Pro2Matterport Pro3Leica BLK 360 G1といった最新機材とドローン(DJI Mavic 2 Proなど)を駆使し、高精度な3Dデータやデジタルツインを制作しています。

今回は、牧場の日常を堪能できるVRコンテンツ「バーチャル牛舎」を制作しました。

 

cows inline at a japanese cattle barn
牛が撮影に興味津々(しんしん)でした。

バーチャル牛舎

「バーチャル牛舎」は、2022年10月に鹿児島県で開催された全国和牛能力共進会、通称「和牛オリンピック」のために制作されました。このVRコンテンツを通じて、来場者の皆さんに、まるで本物の牛舎にいるような臨場感を味わっていただきたいと考えました。また、光栄なことに、Captur3D(3Dプラットフォーム)とMatterport(デジタルツイン作成ソフトウェアプラットフォーム)が主催する「Digital Twin Awards 2022」にもノミネートされました。

 

The names of cows shown outside their enclosure
それぞれの牛は個性豊かな名前がついていました。

バーチャル牛舎への入り口

「バーチャル牛舎」の扉を開けると、そこは鹿児島県の小さな牛舎。まず、晩夏ののどかな田園風景と周囲の音、360度写真が皆さんを迎えます。目の前には4つの牛舎。どれか一つをクリックすると、ポップアップウィンドウでMatterportの空間が開きます。すると、換気扇の力強い音や、牛の装具が鉄製の柵にぶつかるカチャカチャという音が、はっきりと聞こえてくるでしょう。中には、農家の方々と牛たちの日常を記録した動画が流れています。

 

A bail of hay
タグごとに写真を分かりやすく入れました。

撮影地、霧島への道のり

「バーチャル牛舎」の舞台となったのは、鹿児島県霧島(きりしま)市の豊かな自然の中です。アクセスしやすい霧島を選んでくださったのだと思います。鹿児島空港が近くアクセスの良好な場所です。ただ、機材のバッテリーの心配があったため、前日に新幹線で移動しました。公共交通機関を乗り継ぎ、鹿児島空港ホテルに到着するまで、約6時間の道のりでした。

撮影は2022年の9月上旬に行いました。暑く湿度も高い霧島の竹林からは、セミの鳴き声が絶え間なく聞こえてきました。

現地では、電通ライブ関西支社の方々と共に、農家の方とそのご家族にお会いしました。農家の方々が牛について話す様子や、健康状態を確認するために牛に触れるその優しい眼差しから、牛への愛情が伝わってきて、温かい気持ちになりました。100頭以上はいたであろう牛たち一頭一頭に名前が付けられ、柵の上に書かれていました。農家のお母さんと娘さんは、離乳したばかりの子牛たちに餌をあげる際に、一頭一頭の名前を呼んでいました。

私たちは、子牛へのミルクやりや、農家の息子さんたちが成牛に餌(えさ)をあげる様子、獣医さんが妊娠中の牛を診察する様子などを動画に収めることができました。さらに、特別なおまけとして、子牛たちが私の持っていたRICOH THETA Z1という360度カメラに近づいてきて舐め倒すという、VRで見ると本当にドキドキする360度動画もあります!

 

a camera on a very high tripod
ドローンの音で牛が怖がるため、3mの三脚を使って高い位置から牛舎を見渡せる写真を撮りました。

360度パノラマ

「バーチャル牛舎」の大部分は、SONY(ソニー)のα7R IVというミラーレスカメラに、Samyang(サムヤン)の14mm魚眼レンズを装着して撮影しました。これらの写真は360度写真に変換され、Matterport Captureのアプリ内で、4つの牛舎の元となるMatterport Pro2のスキャンデータに重ね合わせられました。こうすることで、写真はMatterportクラウドにアップロードされる前に編集できます。牛の動きが速すぎてPro2のシャッター速度ではほとんど捉えきれませんでした。ミラーレスカメラで撮影した360度写真は、9枚の露出を変えた写真を連写し、HDR編集することで、暗い牛舎の中でも黒い牛を見やすくしました。壁のない牛舎には強い日差しが差し込むため、このHDR編集は不可欠でした。ソニーα7R IVの大きなフルフレームセンサーは、暗い場所でもノイズが少ないため、360度カメラでは難しい状況でも、牛舎と牛をきれいに撮影することができました。

撮影は決して簡単ではありませんでした。ミラーレスカメラのHDRを使っても、牛の動きは速すぎました。9枚連写した写真のうち、最も動きの少ない3枚だけを使用しました。また、車のタイヤや人の靴から病気が牛に持ち込まれるのを防ぐため、農場の入り口には白い消毒用の粉が撒かれていました。この粉はカメラの大敵で、カメラバッグに入り込んだり、レンズ交換の際に空気中に舞ったりします。ブロワーを頻繁に使用して、カメラとレンズをきれいに保つように心がけました。

a dog sleeps at sunset
バーチャルツアー中に二匹の犬がよく登場します。

動画制作

動画は、同じカメラに20mmの単焦点レンズとジンバル(手ブレ補正装置)、そしてiPhoneとジンバル、前述のRICOH THETA Z1を使って撮影しました。ほとんどの動画は、私が撮影し明段舎で制作しました(牛の出産シーンのみ、農家の方のスマートフォンで撮影されたものです)。動画編集はKevin Doyle Jr.が担当しました。

「バーチャル牛舎」の制作を決意してくださった鹿児島県と全国和牛能力共進会(和牛オリンピック)、そしてこの制作に明段舎を選んでくださった電通ライブ関西支社に心から感謝いたします。そして、「Digital Twin Awards 2022」に「バーチャル牛舎」をノミネートしてくださった審査員の皆さんにも、改めて感謝申し上げます。

終わりに

ここまで読んでいただきありがとうございました。下記はおまけですが、バーチャルツアー本番には入っていない360度動画です。リコーシータZ1で子牛たちの牛舎の動画を撮りました。思いがけない終末になりますが、お愉しみください。

関連リンク

明段舎のバーチャルツアー作成についてご興味を持たれた方は「プロフェショナル・バーチャルツアー制作」ページをご覧ください。

a Ricoh Theta Z1 360 camera with a lot of dirt on it.