XRで残す生徒たちの母校の記憶
明段舎は「次の世代の映像で、生活を豊にする」ことをコンセプトに、デジタルと現実をつなげる会社です。
この秋、兵庫県立甲山(かぶとやま)高校で、特別なプロジェクトのお手伝いをしました。企画したのは、株式会社三日月プランニングで、西宮市の事業として行いました。これは、生徒たちが自分たちの手で母校を3Dスキャンし、未来に残すという、西宮市の事業の一つです。
今回は、私、明段舎のブラウンと、Imagebean合同会社の芳野さん、株式会社三日月プランニングの三苫(みとま)さんと水谷さんの4人で、生徒への技術指導を担当しました。
さよならの前に、学校の姿をデジタルデータに
甲山高校の校舎は、昭和58年(1983年)に建てられましたが、2027年3月に閉校が決まっています。
生徒たちと学校全体を3Dデータとして記録する目的は、主に3つありました。一つは、この新しい技術(3D空間レーザースキャン)の利便性を西宮市や地域の方に知ってもらうこと。二つ目は、市民の皆さんに、実際にこの技術を使ってもらう機会を提供すること。そして、一番大切な三つ目は、卒業とともに使えなくなる校舎を、思い出としてデジタルで永遠に残すことです。
かつては生徒が千人を超える「マンモス校」(Wikipedia)だった時期がありましたが、今は247人まで減っています(兵庫県)。講習生の生徒に「校舎のどこか怖い部屋はありますか?」と聞いたら、「基本的にどこでも心霊スポットですよ」と笑われたのが、広い校舎ならではのエピソードでした。
素直で好奇心深い生徒たち
このプロジェクトで、やりがいがあったのは、生徒たちの学ぶ姿です。
経験に基づき、事前に機材の説明や使い方を講義しました。しかし、実際にスキャンが始まると、わずか15分ほど操作方法を見せただけで、生徒たちはすぐに上達しました。
例えば、私がまだ説明していないにもかかわらず、「廊下と教室をつなぐ時に、どうすればいいですか?」と直感的な質問をしてきました。また、背の高いロッカーの上まで正確にスキャンできるか心配し、自分でスキャナーの高さを変えようと試す生徒もいました。
素直で、ためらいのない「なんでだろう?」「こうしたらどうなるだろう?」という好奇心は、本当に新鮮でした。
試行錯誤と学び
普段空間レーザスキャン作業は小人数で行います。機材が高額で、お互いに映り込むリスクから、一人プレヤーが多いです。ところが、今回は、できるだけ多くの生徒に体験してもらうため、校舎の各棟を4つのチームに分けて一斉にスキャンし、後でデータを一つに合体させる計画でした。これにより、広い校舎のほとんどを数時間でスキャンできました。
しかし、後でデータを修正する段階で、合体(マージ)機能の限界が見えてきました。特に、日本の学校に多く見られる「階段」のように上下の接続が必要な部分で、データのずれを直すのが非常に難しかったのです。私と三苫さんは、この問題に対処するため、後日改めてスキャンし直すことになりました。
最終的に、完璧に合体できない階段については、MPEmbedというツールを使って、「ここをクリックすると、上の階に瞬間移動できる」という、見えない扉を作ることで問題を解決しました。
この試行錯誤は、決して無駄ではありませんでした。私たちはこの過程で、最新のマージ機能の仕組みや限界を知ることができ、次にどうすればもっと効率よくできるかを学ぶことができました。
個人的な感想として、広い場所でも、ミスを減らして高品質なデータを作るには、やはり一台のスキャナーで一つのチームがじっくりとスキャンする方が、結果的に効率が良いということが再確認できました。
地域と未来へつなぐプロジェクト
今回のプロジェクトには、ブログ「西宮流(にしのみやスタイル)」の記者やカメラマン、神戸新聞の記者、そして甲山高校の卒業生でもある浜口ひとし議員、一色風子議員といった西宮市議会の皆さんも参加してくださいました。
人口が減り、公共施設を維持・管理するのが難しくなる時代です。今回の甲山高校の例のように、新しい技術を学ぶことと、大切な公共の財産を記録・保存することを組み合わせることで、地域に新しい仕事を作り出しながら、みんなの財産を守っていくことができます。
生徒たちが残したこの母校の記憶が、これからこの技術を学ぶ若い人たち、そして西宮市民の皆さんの未来に役立つお手本となることを願っています。
<プロジェクト報道と参加者のリンク>


