日本真珠会館のバーチャルツアー
こんにちは。明段舎株式会社のブラウンです。
「次世代の映像で人々の生活を豊かにする」をコンセプトに、Webとリアルの垣根のない未来を目指し、デジタルと現実空間をつなげることに取り組んでいます。
全国で350件以上のバーチャルツアー制作実績を持つ弊社では、Matterport Pro2やLeica BLK 360 G1といった最新機材とドローンを駆使し、高精度な3Dデータやデジタルツインを制作しています。
今回は、戦後の真珠産業の復興に貢献した「日本真珠会館」のバーチャルツアーを制作しました。国の登録有形文化財にも指定されたモダニズム建築の傑作を、デジタル空間で体感していただけます。
日本真珠会館と真珠輸出組合の歴史
日本真珠会館は、1952年に設立された真珠輸出組合の拠点として、神戸市に建設されました。戦後日本の復興を象徴するモダニズム建築として、国の登録有形文化財にも指定されていましたが、老朽化のため2023年に惜しまれつつ閉鎖されました。
この建物は、日本の真珠産業の繁栄の歴史を静かに見守ってきた証人でもあります。戦後、真珠は絹と並ぶ日本の主要な輸出品として、外貨獲得に大きく貢献しました。当時の日本は、真珠の輸出によって得た外貨で、必要な物資を輸入し、復興を遂げていったのです。真珠輸出組合は、真珠の品質管理や輸出促進を担い、業界の発展に尽力しました。その活動拠点として建設されたのが、日本真珠会館です。
モダニズム建築
日本真珠会館は、建築家・光安義光(みつやす よしみつ)氏の設計によるモダニズム建築の傑作です。1952年、真珠輸出組合の資金と兵庫県の補助金によって建設されました。それまで兵庫県庁のような公共設計で知られていた光安氏は、日本真珠会館を設計すると同時に、自身も日本真珠会館内に事務所を構えることになりました。
光安氏の「空間は人それぞれに時間的変化による感情を持っている」という設計思想のもと、この建物は設計されました。戦後の復興を象徴するモダニズム建築として、当時の最新技術とデザインが導入されました。
例えば、エントランスの緩やかな曲線を描くデザインは、建物の直線的な冷たい印象を和らげ、来訪者を自然に内部へと誘導します。また、中庭は、暑い季節に自然と建物内の空気の対流を促し、阪神・淡路大震災の際には建物のねじれを吸収し、倒壊を防いだと言われています。
さらに、階段の手すりは、手触りの良さを追求した滑らかな曲線で仕上げられています。細部にまでこだわった設計は、訪れる人々に心地よさと感動を与えてくれます。
バーチャルツアーで蘇る日本真珠会館
この貴重な建物を、バーチャルツアーとして後世に残すことができ、大変うれしく思います。。
1階のミュージアムには、日本の真珠産業の歴史を物語る貴重な資料の数々が展示されています。
- 昔の事務機器:当時の様子が偲ばれるレトロな事務機器の数々。
- 真珠の加工器具:真珠の選別や研磨に使われていた様々な道具。
- 戦前・戦後の写真:真珠の養殖風景や真珠取引の様子を撮影した貴重な写真の数々。
これらの展示品を見ると、日本の真珠産業が歩んできた道のりがよくわかります。
隠された魅力の秘密を解き明かそう
今回のバーチャルツアー制作にあたり、光安義光氏の息子であり、自身も建築家である光安義博氏にお会いすることができました。光安義博氏からいただいた日本真珠会館の建築に関する解説を、バーチャルツアーのいたるところで目にすることができます。この解説は建物の中のタグに、写真、動画、文章で埋め込まれています。日本真珠会館の隠された魅力を探ることができますので、ぜひ見つけて楽しんでみてください。
例えば、
- 螺旋(らせん)階段: 鳥かごのような形状の螺旋階段は、太陽光線によって壁に美しい陰影を映し出します。
- 片肘の椅子: 4階の交換室で使われていた片肘の椅子は、長時間の会議や入札会での利用を考慮したデザインです。
- 「無目(むめ)」がない滑り出し窓: 上下2連の窓に使われている溝のない部材「無目」を配さない珍しい構造は、開放感を高め、眺望を最大限に楽しむための工夫です。
これらの解説を通して、光安氏の設計思想や、当時の建築技術を垣間見ることができます。
最後の入札会の熱気をそのまま記録
4階には、2つの異なるイベントを記録したバーチャルツアーがあります。これらのイベントは3Dバーチャルツアーとは別に360度写真と動画で真珠会館の利用者の様子を記録しています。
1つ目は、「The 103rd Concorde South Sea Pearl Auction」です。このイベントでは、国際色豊かなバイヤーたちが真珠を品定めし、交渉する様子を記録しました。真珠を手に取って吟味する音や、窓の外を走る車の音など、環境音も収録することで、2022年8月の暑い日の熱気を体感できます。
The 103rd Concorde South Sea Pearl Auction
>2つ目は、同年9月に行われた「入札会」です。こちらは、日本真珠輸出加工協同組合が主催する組合員限定の入札会です。組合員である出品者が出品した真珠に対し、組合員である買手が札を入札箱に入れることで応札します。バーチャルツアーでは、入札結果を待つ間の緊張感あふれる雰囲気や、結果発表の様子を臨場感たっぷりに再現しています。司会者による落札結果のアナウンス、慌ただしく結果用紙を配布する係員、そして落札した喜びや落札できなかった悔しさなど、様々な感情が入り混じる空間を体験できます。
多彩な機材で紡ぎ出すバーチャルツアー
今回のバーチャルツアーは、Matterport Pro2カメラで撮影した3D空間データを基に構築しました。建物の内部をくまなく撮影し、その形状や質感を忠実に再現しています。
さらに、Sony α7R IVと魚眼レンズを組み合わせた360度パノラマ写真や、高画質動画も撮影しました。これらの写真や動画を3D空間データに埋め込むことで、より臨場感あふれるバーチャルツアーを実現しました。
バーチャルツアーで未来へと受け継ぐ
日本真珠会館は、日本の近代建築史において重要な役割を果たしただけでなく、戦後の真珠産業を支えた拠点でもありました。
私たちは、バーチャルツアーを通して、この建物の歴史と魅力を多くの人々に伝え、未来へつないでいきたいと考えています。